しかしながら、生体分子系のモデリングを前提とする場合、量子化学計算は必
ずしも第一選択ではない。その理由はたった1つで、その膨大な計算コストのた
め、である。モデリングの対象となる生体分子は、酵素やたんぱく分子の複合体
といった、ある程度の大きさを持った分子であることが多い(もちろん、特殊な
研究やレポート課題などで、DNAやペプチド等の小さな分子を扱うことがある
が、これらは研究おいては稀なケースと捉えて差し支えない)。なお、かつての
量子化学計算では、計算に溶媒や温度の効果を考慮する場合に理論的な整合性や
実装コストの高さが問題となっていたが、多数の理論構築(しばしば「理論武
装」とも呼ばれる)とそのアルゴリズム化によって、ある程度達成している。し
かしながら、計算機の性能も大幅な進歩を遂げていはいるが、実験家を説得させ
るに充分な大きさの生体分子の量子化学計算には、圧倒的に不足している。計算
コストの問題は、研究計画に重大な影響を及ぼすため、この手法を扱うことは慎
重にならざるを得ないというのが現状である。なお、半径経験的分子軌道法をに
代表される大胆な近似法を採用した計算理論によって、計算コストの削減が試み
られているが、標準的な方法は確立されていない。
現実的な観点(主に上述の計算コストの問題)から、生体分子をモデル化する
場合、分子力学法がスタンダードな方法となっている。分子力学法は、分子力場
法とも呼ばれ、系のエネルギーをシンプルなポテンシャル関数で表現する方法で
ある。シュレーディンガー方程式に対し、徹底的に単純化されたこのモデルは、
計算コストを大幅に節約できるため、生体分子を始めとする大きな分子系のモデ
ル構築に適用される。
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