2009年11月20日金曜日

事業仕分けについて(1)

話題の行政刷新会議での事業仕分けについて。

 実は、私の所属プロジェクトも俎上に上げられ、多くの科学研究関連予算と同
様、要約として「縮減」という結果でした。学内関係者や所属学会から、今回の
結果について、文部科学省に意見を出すように依頼が来ました。しかし、お恥ず
かしいことに、自分での様々な立場が葛藤し、自分の意見をまとめることに難渋
しておりました。論を進めるごとに、別の立場の自分が現れ相克してしまって、
収拾がつかなくなっていたのです。

 思考がどこで縺れているのか、自分なりに考えたところ、「1人の国民として
の立場」「1人の研究者としての立場」「この事業で生活費を頂いている者の立
場」、の3つの立場があり、それぞれが葛藤していることが原因にあるようで
す。また、今までこのような事を深く考えることが無かった自分に呆れてしまっ
て、それがまた遅筆の遠因であったように思います。

 自己嫌悪はさておき、上にあげました3つの立場のうち、「この事業で生活費
を頂いている者の立場」は、至って私的な観点に起因する立場といえます。一方
で、今回の出来事を、私にとって深刻な事態にしているのも、この立場です。し
かしながら、このプロジェクトの来年度の採択がかなり厳しい状況にあります
し、また客観性を欠く要因とも成り得るので、ここでは潔く葬り去っても良いで
しょう。

 さらに立場を整理して論点を明白にして行きます。

 残る2つの立場「1人の国民としての立場」「1人の研究者としての立場」
は、どちらも軽視することができません。行政刷新会議は財務省の提案は発端で
ある様子ですが、選挙で選ばれた政権党が公認している以上、当然無視できるも
のはありません。民主主義のルールに則り、大きな影響力を持って然るべきだと
思います。よって、仕分け作業の結果も、国民の総意として、当事者は真摯に受
け止める必要があります。しかし、その結果が、本当に国民にとって良い将来を
約束するものなのかは疑問です。もし、民主党が公約を完遂するための財源を確
保することだけが目的であれば、民主党の選挙対策としか思えませんので反対で
す。一連の公約は、国民の将来を短期的な視点でしかとらえていない政策です。
科学の発展は国力の発展に直結していますが、成果の還元は長期的な視点で捉え
る必要があります。

 要するに、「即効性」をとるか「遅効性」を取るかの問題といえます。

 しかし、その2つしか選択肢が無いのだとしたら、国家の取りうる方針として
は、あまりに貧弱で心もとないと思います。そこを柔軟に考えてこそ、政治だと
私は思います。

 私は、麻生内閣の「定額給付金」の経験から「子供手当支給」の経済効果とし
ての即効性は期待できると思います。一方、科学の発展が長期的な国力の増進に
繋がることは、歴史が証明しています。例をあげると、「製鉄」「産業革命」
「兵器」「抗生物質」「エネルギー」等が該当します。より現代的な例では、IT
技術があげられます。デジタルディバイトは今や国家力の差を規定するものでも
あります。
 
 私は国粋主義ではありませんが、日本は発展し続けることの可能な数少ない国
の1つとして、今後も人類の発展を科学や文明で牽引していくべきと思います。
また、日本は資源が乏しく、科学技術分野での成功無くしては、やがて黒船に怯
える時代に後戻りしてしまうと思います。したがって、科学技術の分野で世界を
牽引していく事が合理的であることは明白です。

 しかし、民主党の考えは、「科学研究のような長期的な見返りのある政策は一
旦休止か遅らせてでも、即効性のある政策を優先したい」ということのようで
す。この一時的な休止が、後で挽回できるものか、それとも、気がついたときに
は、致命傷の遠因となるのか。

 未来がどちらに向けて進んで行くのか、多くの国民には判断材料がないと言っ
て良いでしょう。そこで、判断材料を持つ国民、すなわち科学者の意見が重要と
なるわけです。

 

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